かめの感謝のーと。

家族との出来事や、日々感じたことを、自分なりの言葉で伝えて行きます。詩にも表現していきます。

上司 〜憧れの人との再会〜

以前、お仕事でお世話になった方と13年ぶりに再会をした。

当時、新人だった私に、仕事の基礎を教えて下さった方。

人前に出る事、話す事が苦手で、不器用で頭の固い私には、接客業で必要とされる臨機応変さや、コミュニケーション能力が圧倒的に不足しており、お客様への対応にいつも悩み、出来ない自分を追いつめていた時期だった。

今なら、自分自身がサポートに回る方が好きだし、サポート役に徹する事が適性であるという事を理解している為、接客業を選択する事はないだろう。

それでも、当時苦手な接客業を頑張れたのは、職場の雰囲気の良さと、今回再会した上司への憧れがあったからだった。

お客様や、従業員と、にこやかに談笑する姿、颯爽と料理を運んでいく姿がかっこよかったのを今でも覚えている。黒い制服を着用した広い背中がいつも頼りがいを感じさせてくれた。そして、職場の雰囲気作りがとても上手な方だった。

女性の多い職場だった為、メンタルケアは必須であり、色んな悩みを相談する従業員に対し、黙って話を聞き、肯定していく。

真面目すぎる私に対しては、無表情のままいつも冗談を言い、からかってくる。

何が起きても、誰に対しても、一切感情的にならず、常に一定を保つ。そして、従業員のミスに対し、全てフォローしてくれた。

私が憧れた理想の上司である。

私は周りの先輩達のように話が上手くなくて、会話も苦手な為、本当は聞きたい事も、話したい事も沢山あったけれど、仕事以外の話をしてはいけないと思っていたから、談笑などできなかった。だけど本音はかまってほしくて、飲み会の度、浴びるようにお酒を飲んではよく絡んでいた。

1年くらい経った時、接客がガチガチだった私に、お客様が「表情が少し柔らかくなったね」と言ってくれた。

ようやく私が仕事に慣れ始めた時、憧れの上司は他店へ移動になった。

新しい上司が来ると、職場の雰囲気がガラッと変わってしまい、新しい上司や先輩方と上手くコミュニケーションが取れなくなり、先輩ともぶつかり、私は会社を辞めた。会社に迷惑をかけ辞めた私を、最後までフォローしてくれたのが今回再会した上司だった。

私はその後すぐに大切な人と結婚をし、出産、育児と慌ただしく日々が流れていった。

 

今回、昔の職場の方達数人で、久しぶりの再会となり、緊張してしまい、まともに話せず、飲み過ぎてまた絡み、感謝をお伝えするどころか、人間関係での悩みの愚痴をずっと聞いていただくという最悪の展開。

でも黙って話を聞き、返してくれた言葉が、

「いいじゃん、これからはもう良い事しか起こらないよ。」

 

辛かった出来事で渇ききった心が、この人のたった一言で満たされていく。どんな人も、どんな話もバカにせず、肯定し、前向きにしてくれる。

今なら分かる。

なぜ、この人が周りから愛され、慕われるのか。

人は誰でも話を聞いて欲しい。

ああした方が良い。こうした方が良い。などのアドバイスなんていらない。

共感し、肯定して欲しいだけ。

そして、ありのままの自分を優しく受け止めて欲しいんだ。

優しい人こそ愛される。

愛情はふとした言葉や表情に現れる。

きっと、この先も、私はこの人を憧れ続けるだろう。

 

私の大切な人は、言葉足らずの不器用な人。沢山の愛を持っているのに、人を褒める事も、言葉で気持ちを伝えるのも苦手だ。

「いちいち伝えなくても、行動で分かるだろ」

というタイプ。上手く伝えられないから、誤解を生んだり、損をしやすい。

不器用な彼を私は肯定し、褒め続けよう。

憧れの上司が与えてくれた無償の愛も優しさも、私自身が周りの人に与えられるような人になりたい。

13年経ち、あの頃の自分には理解できなかったものが少しだけ見えた気がした。